髪を抜くのがやめられず、頭皮が薄くなったり脱毛斑ができたりしている場合は「抜毛症(ばつもうしょう)」、トリコチロマニアの可能性があります。自分の毛を繰り返し抜いてしまい、やめたいと思ってもなかなかやめられない状態で、頭髪のほか、眉毛やまつ毛、体のほかの部位の毛を抜くこともあります。
抜毛症は単なる悪い癖や意志の弱さではなく、ストレスや不安、退屈、集中しているときの手の動きと関係していることがよくあります。抜毛による脱毛斑は円形脱毛症や頭部白癬(しらくも)と似て見えることがありますが、対応は異なります。皮膚科医に直接頭皮を診てもらい、必要に応じて精神科・心療内科と連携して支えていくことをおすすめします。
要点:抜毛症は自分の毛を繰り返し抜き、やめにくい状態で、思春期前後に始まることが多く、頭皮には形が不規則で長さのそろわない切れ毛の部分がみられます。ストレスや不安、ぼんやりしているときの癖のような動作と関係することがあります。改善はハビットリバーサル(習慣逆転法)などの行動療法が中心で、きっかけの記録や代わりの動作を組み合わせます。抜くのをやめると髪は生えてくる見込みがあることが多い一方、長く繰り返すと毛包を傷めることがあります。脱毛斑が広がる、抜いた毛を食べる・腹痛がある、気分に影響が出ている場合は、医師に直接診てもらいましょう。
抜毛症とは?髪をよく抜くと抜毛症なの?
抜毛症は医学的に「強迫症および関連症群」の一つに分類されます。中心となる特徴は、自分の毛を繰り返し抜き、何度も減らそう・やめようとしてもできず、その結果、目に見える毛の減少が起きたり、悩みや生活への支障が生じたりすることです。
ときどき白髪や枝毛を 1、2 本抜くことは、抜毛症と同じではありません。違いは、繰り返し起きているか、コントロールが難しいか、すでに薄毛や脱毛斑が出ているかという点です。
抜毛症は 10〜13 歳ごろに始まることが多いものの、未就学の幼児や大人になってから現れることもあります。子どもの時期は男女ともにみられ、大人で受診する人は女性が多い傾向です。恥ずかしさから隠してしまい、検査や支援が遅れることも少なくありません。
抜毛症にはどんな症状がある?頭皮の脱毛斑はどう見える?
抜毛症の現れ方は人によって異なり、同じ人でも時期によって抜く部位や方法が変わることがあります。よくみられる特徴は次のとおりです。
抜く部位とタイミング
頭皮はよくみられる部位で、特に利き手が届きやすい頭頂部、額の両側、耳の上などです。眉毛、まつ毛、ひげ、体のほかの部位の毛を抜くこともあります。テレビを見ている、勉強している、スマートフォンを操作しているときに無意識に抜く人もいれば、緊張や不安を感じたときに意識して抜く人もいて、両方が重なることもよくあります。
頭皮の見た目の特徴
抜いた部分は形が不規則で境目がはっきりしない薄毛や脱毛斑になりやすく、体の片側に偏ることもあります。毛がさまざまな長さで切れているため、触ると短い毛がざらざらした感じがし、ひっかき傷や小さな赤い点が見えることもあります。
抜く前後の気持ち
抜く前に緊張感や抜きたい衝動を感じ、抜いた後に一時的にほっとしたり満足したりし、その後に後悔や自責の念が生じる人が多くいます。この繰り返しが、抜毛をさらにやめにくくします。
毛を食べる場合は特に注意
抜いた毛をかんだり飲み込んだりする人もわずかにいます。毛は消化されないため、長期間たまると胃や腸で毛玉(毛髪胃石)となり、腹痛、吐き気、嘔吐、腸閉塞を起こすことがあります。こうした症状があれば早めに受診してください。
なぜ髪を抜くのがやめられない?考えられる原因は?
抜毛症のはっきりした原因はまだ完全にはわかっておらず、通常は一つの要因だけで起こるものではありません。次のようなことが関係すると考えられています。
- ストレスと感情の調整:ストレスや不安、退屈、いらだちに向き合うときの紛らわし方として、抜毛が定着することがあります。
- 集中しているとき・ぼんやりしているときの手の動き:勉強、仕事、動画視聴、寝る前など、手が空いている場面で起こりやすくなります。
- 衝動や習慣をコントロールする脳の働き:衝動や報酬を処理する脳の仕組みとの関係を指摘する研究もあります。
- 家族の傾向:家族に似た経験のある人がいることがあり、体質や遺伝が関係する可能性があります。
- 思春期のホルモンの変化や、受験、引っ越し、人間関係などの生活の変化。
- 同時にみられる状態:不安症、うつ、強迫症、または爪かみや皮膚むしりなどほかの反復行動。
最近、仕事や勉強のストレスが大きく睡眠も不十分で、洗髪時の抜け毛がはっきり増えている場合は、ストレスに関連する休止期脱毛も考えられます。ストレスで抜け毛は増える?休止期脱毛の見分け方も参考にしてください。両者は対応が異なります。
抜毛症と円形脱毛症・頭部白癬・牽引性脱毛症の違いは?
頭皮が一部薄くなっていても、抜毛症とは限りません。下の表はよくある状態の違いをまとめたものですが、対面での診察の代わりにはなりません。脱毛斑が突然現れ、境目がはっきりしていて頭皮がつるつるしている場合は、円形脱毛症に近い所見です。
| 比較項目 | 抜毛症 | 円形脱毛症 | 頭部白癬 | 牽引性脱毛症 |
|---|---|---|---|---|
| 脱毛斑の形 | 形が不規則で境目が整っていない | 円形や楕円形で境目が比較的はっきり | 円形または不規則、ふけ状の皮むけを伴うことが多い | 生え際、分け目、髪を結んで力がかかる部分に集中 |
| 頭皮の表面 | 通常は目立つ炎症がなく、ひっかき傷があることも | つるつるで、通常は赤みやかゆみがない | 赤み、かゆみ、皮むけ、黒い点状の切れ毛がみられることも | 毛穴のまわりに小さな赤い点やぶつぶつがみられることも |
| 毛の特徴 | 長さのそろわない切れ毛で、触るとざらざらする | 根元が細く先が太い短い毛がみられることも | 毛が折れやすく、つやがない | 引っ張られる部分が徐々に薄くなる |
| よくみられる人 | 子ども、10 代、若い成人 | どの年齢でも起こりうる | 子どもに多く、ペットとの接触があることも | 髪を長期間きつく結ぶ、編み込む、ヘアピースをつける人 |
| 検査のポイント | 頭皮とダーモスコピーの観察、抜毛の習慣の確認 | ダーモスコピー、ほかの免疫の病気の合併を評価 | 真菌検査 | 髪型の習慣と力がかかる位置の確認 |
| 対応の方向性 | 行動療法が中心、必要に応じて精神科と連携 | 範囲と経過に応じて医師が治療を評価 | 医師による抗真菌治療の評価が必要 | 引っ張りを減らし髪型を見直し、早めに評価 |
皮膚科ではどう検査する?精神科の受診も必要?

診察では、まず抜け毛がいつ始まり、場所がどう変化してきたか、髪を抜く・ねじる・引っ張る癖があるかを医師が尋ねます。自分で抜いていることに気づいていない人もいるため、家族の観察も役立ちます。続いて頭皮と毛の分布を診察し、ダーモスコピーで切れ毛の形、毛穴、頭皮の状態を観察することがよくあります。
見た目が典型的でない場合は、頭部白癬を除外するための真菌検査を行うことがあり、まれに抜毛症、円形脱毛症、ほかの脱毛症を見分けるために頭皮の生検を行います。毛を食べる習慣や腹部の不快感がある場合は、胃腸の状態をさらに評価することがあります。
抜毛症は感情や行動のパターンと関係しています。抜毛が気分や学業、仕事、人間関係に影響している場合や、不安やうつなどを伴う場合は、精神科や臨床心理士への紹介を勧められることがあり、皮膚科と精神科が一緒に支えていきます。これはケアをより充実させるためで、あなたが何か悪いことをしたという意味ではありません。
抜毛症はどう改善する?治療の方向性は?
抜毛症の治療の目標は、抜く回数を減らし、髪が生えてくる機会をつくり、抜きたい衝動との向き合い方を身につけることです。現在は行動療法が中心で、実際の方法は年齢、抜毛のパターン、同時にある状態に応じて調整します。
- ハビットリバーサル(習慣逆転法):認知行動療法の一つで、いつ・どこで抜いているかに気づく練習と、衝動が出たときに毛を傷つけない代わりの動作をする練習を含みます。
- 刺激コントロール:抜きやすい環境や場面を見直します。たとえば勉強中に手を使う物を用意する、鏡で髪をチェックする時間を減らすなどです。
- 認知行動療法と感情調整の練習:抜く前後の考え方、ストレス、自責感に取り組みます。
- 家族や自助グループの支え:叱るより励ますことが、練習を続ける助けになります。
- 薬:現時点では、最初に行う標準的な治療ではありません。不安症、うつ、強迫症などを伴う場合は、薬の助けが必要かを精神科医が評価します。
- 頭皮のケア:抜毛によるひっかき傷や炎症は、皮膚科医が評価して対応します。
髪が伸びるには時間がかかり、抜くのをやめてから新しい髪の変化が見えるまで通常数か月かかります。その間に後戻りすることもあり、改善の過程ではよくあることです。同じ場所を長く繰り返し抜くと毛包が傷み、戻りにくい薄毛が残ることがあるため、早めの対応をおすすめします。抜け毛は毛包の萎縮を意味する?と髪の成長周期と抜け毛の見分け方もあわせてご覧ください。
自宅でできることは?髪を抜く回数を減らす 7 つの練習

以下は行動療法でよく使われる工夫を参考にした方法です。医師やカウンセラーと相談しながら、自分に合う組み合わせを選びましょう。一度にすべて行う必要はありません。
- 抜毛日記をつける:時間、場所、そのとき何をしていたか、気分を書き出し、自分が抜きやすい場面を見つけます。
- 手を使う:ストレスボールや握れる小物を用意する、衝動が出たらこぶしを握り腕の筋肉に力を入れて、衝動が弱まるまで待ちます。
- 小さな障害をつくる:家で帽子やバンダナをかぶる、指先にテープを貼る、髪を短くするなどで、抜きにくくします。
- 環境を整える:毛抜きをしまう、明るい鏡の前で髪をチェックする時間を減らす、勉強や仕事中の手の位置を変えます。
- ストレスと生活リズムを整える:適度な運動と十分な睡眠、深呼吸やリラクセーションで緊張をやわらげます。
- 無理のない範囲で話す:信頼できる家族や友人に伝えましょう。長く隠し続けると、かえって不安が強まることがあります。
- 頭皮をやさしく扱う:洗髪時に強くこすらず、傷や腫れがあるときは医師に任せましょう。
しばらく試しても抜く回数を減らすのが難しい場合は、より体系的な支援が必要というサインであり、あなたの努力が足りないわけではありません。
子どもが髪を抜くときは?保護者にできること
未就学の幼児が髪を抜くのは、寝る前や指しゃぶり、安心感を求める行動と関係することがあり、成長とともに減る子もいます。学童期や 10 代の抜毛は、ストレスや不安と関係することが多く、長く続くこともあります。
子どもが髪を抜いているのに気づいたら、叱る、罰を与える、人前で指摘することは避けましょう。恥ずかしさやストレスが増えてしまいます。落ち着いて抜くタイミングを観察し、一緒に代わりの動作を探しながら、毛を食べていないかにも注意してください。
子どもの抜け毛は頭部白癬や円形脱毛症、ほかの原因によることもあります。子どもの抜け毛のよくある原因と受診の目安を参考にし、医師に直接頭皮を診てもらいましょう。
抜毛症によくある誤解は?
誤解 1:髪を抜くのはただの悪い癖だから、我慢すればいい?
抜毛症には抑えにくい衝動が伴うことが多く、意志の力だけでは足りないことがよくあります。気づきと代わりの動作を身につけ、必要に応じて専門家の助けを求めるほうが、自分を責めるより役に立ちます。
誤解 2:抜いた髪はもう生えてこない?
抜いた部分の多くは毛包がまだ髪を生やす力をもっていますが、長期間繰り返し引っ張ると毛包が傷むことがあります。早めに抜く回数を減らすと、頭皮は回復しやすくなります。
誤解 3:育毛剤を塗れば抜毛症は解決する?
抜毛症の中心は髪を抜く行動です。引っ張り続けていれば、育毛剤も効果を発揮しにくくなります。頭皮の治療が必要かどうかは、まず医師が抜け毛の原因を確認してから判断します。
受診の目安は?
ときどき 1、2 本抜く程度で目に見える薄毛がなければ、まず様子をみながら上の練習を試してもよいでしょう。次のような場合は受診をおすすめします。
- 頭皮、眉毛、まつ毛に目に見える薄毛や脱毛斑がある、または範囲が広がっている。
- 何度もやめようとしてもやめられない、または抜くことに多くの時間を取られている。
- 毛をかむ・飲み込む習慣がある、または腹痛、吐き気、嘔吐、食欲低下がある。この場合は早めに受診してください。
- 脱毛斑に赤み、腫れ、皮むけ、膿、痛みを伴い、頭部白癬やほかの頭皮の感染症を除外する必要がある。
- 自分で抜いたのか、突然現れた円形の脱毛斑や大量の抜け毛なのかがはっきりしない。
- 抜毛のために恥ずかしさや不安、落ち込みを感じる、または学校や仕事、人間関係に影響している。
抜け毛のパターンは一つではありません。洗髪時の抜け毛が増えた、全体的に髪が薄くなったと感じる場合は、抜け毛が多いときの注意サインもご覧ください。頭皮の脱毛斑の原因を確かめたいときは、瑞安クリニックの脱毛外来で医師に直接評価してもらえます。
健康教育記事の参考文献
- 英国国民保健サービス(NHS):Trichotillomania(hair pulling disorder)
- DermNet:Trichotillomania(抜毛症)
- 米国国立医学図書館 MedlinePlus:Trichotillomania
経過は人によって異なります。未就学期に始まった抜毛は成長とともに減ることがありますが、10 代や大人の抜毛症は良くなったり悪くなったりすることがあります。行動療法、きっかけの記録、家族の支えによって抜く回数を減らせる人は多くいます。途中で後戻りすることもあるため、焦らず医師と相談しながら調整しましょう。
多くの場合、抜くのをやめれば毛包から新しい髪が生えてくる見込みがありますが、髪が伸びるには時間がかかり、変化が見えるまで通常数か月かかります。同じ場所を長く繰り返し抜いていると毛包が傷み、回復しにくくなることがあるため、早めに皮膚科で頭皮を診てもらいましょう。
まずは皮膚科で頭皮を診察し、円形脱毛症や頭部白癬などほかの脱毛の原因を除外し、頭皮の状態を評価してもらうことができます。抜毛がストレスや不安、気分の問題と強く関係している場合や生活に影響している場合は、精神科医や臨床心理士にも行動療法で関わってもらうよう勧められることがあります。
円形脱毛症は多くの場合、突然現れる境目のはっきりした円形の脱毛斑で、頭皮はつるつるしています。抜毛症の脱毛斑は形が不規則で、長さのそろわない切れ毛が混じり、触るとざらざらします。見た目が似ていたり両方が同時にあったりすることもあるため、ダーモスコピーなどで医師に直接判断してもらいましょう。
幼児の抜毛は安心感を得るための行動や寝る前の習慣と関係することがあり、成長とともに減る場合もあります。ただし脱毛斑が目立つ、数週間以上続く、毛を食べる、腹痛があるといった場合は受診してください。叱るのは避け、抜くタイミングを観察し、一緒に代わりの動作を探しましょう。
抜毛症は行動療法が中心で、薬は最初に行う標準的な治療ではありません。不安症、うつ、強迫症などを伴う場合は、薬の助けが必要かを精神科医が評価します。自己判断で薬を購入・使用せず、実際の治療は医師が個々の状態に応じて決めます。
医師からの注意:まず脱毛斑の原因を確かめ、抜く回数を減らす方法を一緒に探しましょう
頭皮の形の不規則な薄毛は抜毛症のこともあれば、円形脱毛症や頭部白癬、ほかの脱毛症のこともあり、見た目は似ていても対応は異なります。受診時には抜くタイミング、部位、続いている期間を伝え、保護者の方は観察した内容を共有してください。医師が頭皮を診察して判断します。抜毛症は意志の弱さではありません。自分を責めたり、お子さんを叱ったりしないでください。頭皮の治療や精神科への紹介が必要かどうかは、専門の医師が直接評価する必要があります。
本稿は疾病の健康教育であり、医薬品広告ではなく、特定の医薬品の推奨や販売を含みません。内容は医師の診察に代わるものではなく、実際の診断、検査、治療は、医師が個々の状態に応じて直接評価します。
脱毛外来の医師チーム

曾 医師
